今回は前回の「なくなる?不動産鑑定士が抱える2つの大きな不安」の続きとなります。
前々回の記事はこちら → なくなる?不動産鑑定士が抱える2つの大きな不安 前編
前回の記事はこちら → なくなる?不動産鑑定士が抱える2つの大きな不安 中編
前編では1.不動産鑑定士の「資格制度自体」が廃止されてなくなることに関して記載しました。
そして中編と今回の後編では2.不動産鑑定士の「仕事」がなくなり、または劇的に減少し、不動産鑑定士の市場価値がなくなるというものについて記載しています。
今回はAI技術の進展により、動産鑑定士がAIに取って代わられる可能性について記載していきます。
不動産鑑定士の仕事がなくなるという点においては、おそらくこれが一番可能性の高いシナリオであり、これから受験を考えている人達、既に鑑定業界で働いてる人達もこの点について不安に思っている方が多いと思います。
AI技術の進化は速く、現時点でAIには将来含めて不可能と考えられる業務であっても、できるようになるかもしれません。そのため、ここからは現時点での私の私見ということになります。
私の私見の結論ですが、AIの進化にともない、不動産鑑定士の仕事が完全にAIに取って代わられるということはないと考えています。ただ不動産鑑定士の業務の一部はAIによる代替が可能ですし、すでに業務効率の一貫としてAIによる代替が始まっていると考えられます。
まず代替可能な部分については、賃料相場や土地価格の相場の判定についてはAIによる代替が可能です。ネット上に上げられている賃料データや土地価格の情報を人間が一つ一つ調べてそれらを判定していくよりも、AIに判定させた方が圧倒的に速くできます。
また鑑定評価書を含むレポートの文章作成についてもAIによる代替が可能です。
ただし、鑑定評価でも私が従事している不動産コンサルティングでも、AIによる代替が難しいだろうと考えられる部分は多くあります。
例えば公表されているデータの少ない借地権や底地の評価・コンサルティング、公開されている賃料データの少ないスペックの良いオフィス、商業ビル、物流施設、ホテル、老人ホームの評価・コンサルティング。図面の確認が必要な(賃貸可能部分の把握や、共用部の充実度、遵法性のチェック等の確認のため必要)既存ビルの有効活用に関するコンサルティングなどは、その全てをAIが代替するのは難しいと思います。
また一番大きな部分ですが、AIには説明責任が果たせず、さらに責任を負うことができないこともAIが不動産鑑定士に完全に取って代われない理由と言えます。
不動産の価値判定(鑑定評価でいう価格や賃料の査定)はAIが行ってくれたとしても、その精度の問題は別として、AIは価値判定の過程を示してくれません。精度が高くても、価値判定の過程がブラックボックスであるため、AIだけでは依頼者への説明責任を果たせないのです。
無料の不動産価格査定なら、AIで判定させた結果ご依頼の不動産価格はいくらです、で通ります。しかし、それなりのフィーを払って不動産価格査定やコンサルティングをお願いする場合、会社の役員会に通すため、監査を通すため、裁判資料として、税務署提出のためなど、お願いするだけの理由があるのです。そのような場合に、これはAIが査定しましたから、金額、結果はこうですが理由は分かりません、では通らないのです。
途中過程はAIが一部代替してくれても、最終的な説明責任やその成果物による結果責任は鑑定士が負う。そのため、不動産鑑定士の仕事はAIに完全に取って代わられるのではなく、今後は不動産鑑定士がAIを上手く利用しながら業務を進めていく形になると考えられます。