1.不動産鑑定士
不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を行うことができる不動産の専門家です。不動産の鑑定評価とは不動産の経済価値を判定し適正な価格(時価)を算定することを指し、不動産の価格を算定する場合と賃料を算定する場合とに分けられます。不動産鑑定士が作成する成果物を不動産鑑定書といい、この不動産鑑定評価書の作成は不動産鑑定士の独占業務となっています。また不動産鑑定士は、弁護士・公認会計士と並ぶ三大国家資格の一つであり、不動産資格の中では最高峰の資格です。全国に8,500人程度しかいないため、希少性が高く、企業で働く場合でも重宝される資格といえます。
2.難易度
★★★★★
3.国家資格か民間資格か
国家資格
4.受験者数
一次試験(短答式試験)1,600人~1,700人
二次試験(論文試験) 700人~900人
※二次試験は一次試験合格者のみ受験可能。一次試験合格の有効期間は3年間で、その間は一次試験を受験することなく二次試験の受験が可能。
5.合格率
一次試験:32~36%程度
二次試験:15~17%程度
6.業務内容(独占業務の内容)
不動産鑑定士の独占業務としては、前記のとおり不動産鑑定評価書の作成となります。不動産鑑定評価書では依頼者の求めに応じ評価する不動産の「価格」を求めることに加え、評価する不動産の「賃料」を求めることもできます。また不動産鑑定士は不動産の価格査定、賃料査定のプロですが、価格・賃料の査定に限らずそのノウハウを生かして不動産に関するコンサルティングや調査、分析業務等も行います。
以下では不動産鑑定士の業務内容について具体的に見ていきます。
(1)不動産鑑定評価
不動産鑑定士の主たる業務がこの不動産鑑定評価で、不動産鑑定評価には「価格」を求める場合と「賃料」を求める場合があります。
①価格を求める場合
a.公的評価
不動産鑑定士の業務の中で、大半の不動産鑑定士が従事している評価業務で公的評価と呼ばれるものがあり、この公的評価には「地価公示」、「地価調査」、「相続税標準地の評価」、「固定資産税標準宅地の評価」があります。「地価公示」は毎年1月1日時点の決められた地点の鑑定評価額を求めるもので、国からの依頼となります。「地価調査」は地価公示から半年後の毎年7月1日時点の決められた地点(地価公示と同一地点もあるが、大半は別の場所に設定された地点)の鑑定評価額を求めるもので、都道府県からの依頼となります。両者は一般の人々の取引価格に対して指標を与えるために実施されています。「相続税標準地の評価」は相続税路線価を定めるために、毎年1月1日時点の決められた地点(地価公示や地価調査の地点とは異なる)の鑑定評価額を求めるもので、国税庁からの依頼となります。「固定資産税標準宅地の評価」は固定資産税路線価を定めるために、3年に1回、評価を行う年の1月1日時点の決められた地点の鑑定評価額を求めるもので、市町村からの依頼となります。
これらの業務は「固定資産税標準宅地の評価」以外は毎年依頼が来る業務であるため、不動産鑑定士は景気に左右されず安定的な収入が得られるといわれています。
b.国や地方公共団体からの依頼
国や地方公共団体からの鑑定評価の依頼は、例えば新たに道路や公園等の公共施設を造るケースで、その用地確保のために私有地を買収する必要がある場合等、適正な買収価格の査定が必要なケース。逆に国や地方公共団体が所有している土地で、民間への売却を行う場合等、適正な売却価格の査定が必要なケース等があります。また最近では国や地方公共団体が所有している公園等を民間に貸し出し、民間の力や資金でその公園を活性化してもらう事業等において、その貸し出し料(賃料)の査定依頼も増えています。
c.民間企業からの依頼
地方公共団体以外の依頼者では、(a)一般事業会社、(b)金融機関、(c)他士業、(d)J-REIT、私募(プライベート)リート、私募ファンド等、不動産の証券化に伴う鑑定評価があります。
(a)一般事業会社ですと、依頼目的が会計上や税務上の必要性を背景とするものが多く、他には取締役会へ付議するための社内資料として利用するためというような社内事情を背景とするものや、借主あるいは貸主との賃料交渉に利用するためというような交渉の材料として利用するためというようなものもあります。
(b)金融機関からの依頼は専ら担保評価となりますが、そのほかにも融資している不動産について債務者に定期的(大体1年に1回)に鑑定を取らせているが、その債務者が取得した鑑定評価書が妥当であるかについて、セカンドオピニオンとして鑑定評価書を自ら取得するよう場合もあります。
(c)他士業(弁護士、会計士、税理士)からの依頼ですと、税理士からの依頼案件が圧倒的に多く、次いで弁護士が多い印象です。不動産と税務は切っても切れない関係で、特に同族間法人や個人とその個人が代表取締役を務めている法人との取引等では、税務署に対して適正な価格で売買していることを証明するための資料として鑑定評価書を取得することが多くあります。弁護士からの依頼は訴訟がらみの案件で、不動産の価値が論点となるケースが多いです。会計士は監査法人からの依頼が大半で、減損会計やM&Aがらみの案件が多いです。
(d)不動産の証券化に伴う鑑定評価は、主に大手の鑑定会社が受注している案件で、J-REIT(不動産投資信託で、東証に上場しています)や私募(プライベート)リート、私募ファンドが保有して運用している不動産については、定期的(年に2回か1回で、依頼者によって異なる)にその価格を評価しなければならないため、その評価のための依頼となります。
②賃料を求める場合
賃料を求める場合の鑑定評価は主に継続賃料の評価といって、新しく賃貸借契約を結ぶ場合ではなく、すでに賃貸借契約関係にある賃貸人と賃借人の間で賃料の値上げや値下げの交渉を行う場合や、その交渉がこじれて争い(訴訟)になっている場合に評価を依頼されるケースが大半です。賃料の評価は建物賃料である家賃の評価もありますし、土地の賃料である地代の評価もあります。
(2)コンサルティング
不動産のコンサルティングは多岐にわたります。そのため、こういったものがコンサルティングであるという型のようなものはなく、不動産鑑定評価業務以外の相談事への対応を広くコンサルティングと呼んでいます。コンサルティングの例としては、例えば顧客が複数の不動産を所有しており、その不動産の有効活用を提案してほしい等といったケースがあり、明確な答えがない中で不動産や不動産鑑定評価の知識を使って答えを考えて行くこととなります。
(3)調査・分析業務
調査・分析業務としては、例えば顧客が所有する不動産の賃料としてどの程度の賃料が見込めるかや、その不動産を売却する際に期待される利回りがどの程度になるかなどを、マーケットの状況を調査・分析してレポートにまとめていくような業務になります。そのため、上記(2)のコンサルティングの一部と考えることもできます。
7.活躍の場所
(1)不動産鑑定事務所
不動産鑑定士が最も多く活躍している場所はやはり不動産鑑定事務所です。不動産鑑定事務所は、個人事務所や数名の不動産鑑定士が所属する事務所から100名を超える不動産鑑定士が所属する大手事務所まで様々です。個人事務所や数名の不動産鑑定士が所属する事務所では、前記の公的評価や国や地方公共団体からの依頼、民間企業からの依頼等が業務の中心となります。一方で、大手事務所となると不動産の証券化案件が多く、特殊な不動産(発電所、データセンター、野球場など)の評価も経験できます。不動産鑑定士の試験(短答、論文)に合格すると、実務修習という研修を受けてその課題をクリアして、試験に合格する必要がありますが、その実務修習を受ける期間はどこかの鑑定事務所に所属する必要(一部例外もありますが)があります。そのため、不動産鑑定士になるためにはどこかのタイミングで鑑定事務所に所属(勤務)する必要があります。どこの事務所がいいかは不動産鑑定士になって、どうしたいのか?によって変わってきますので、一概にどこがいいとは言えませんが、地元で独立したいのであれば地元の鑑定会社で修行しながら人脈を作る必要があると思いますし、将来不動産鑑定士の資格をとって別のデベロッパーや金融機関、不動産証券化に関係する企業(主にアセットマネージャー)に転職したいのであれば、大手鑑定事務所が最適です。
(2)不動産会社
不動産会社(デベロッパー)で活躍する不動産鑑定士もいます。不動産会社では鑑定部門を有する会社もありますが、大半は不動産鑑定評価業務を行うのではなく、あくまで不動産や不動産鑑定の知識を生かして、不動産開発に係る企画、立案や建ち上がった不動産の管理業務などに携わることとなります。
(3)金融機関
金融機関としては、銀行や信託銀行が挙げられます。銀行では融資を行う際の担保不動産の評価や、顧客が所有する不動産の有効活用や運用に関する相談対応等に、大手銀行ではさらにノンリコースローンという主に不動産の証券化において用いられる不動産融資に携わったりします。また信託銀行では大型不動産の仲介や、信託受託業務、受託した不動産の管理業務等に従事します。
(4)AM(アセットマネジメント)会社
不動産鑑定士が不動産鑑定会社の次に多く在籍するのは、おそらくこのAM(アセットマネジメント)会社になります。以前「転職事情」で記載しましたが、私の在籍する会社でもAMに転職する人間が、不動産鑑定士であるか否かに関わらず非常に多くいます。AM会社は投資家(機関投資家(銀行、生命保険会社、損害保険会社、信託銀行)、年金基金、不動産会社、事業会社等)から預かった資金を不動産に投資して運用する会社で、その役割としては、①投資する不動産の取得(アクイジション(略してアクイジと言われます)・売却(ディスポジション(略して、ディスポジと言われます)、②取得した不動産の売却までの管理、が挙げられます。不動産鑑定会社において、証券化案件の鑑定評価に携わっていると、AM会社は顧客として普段からやり取りをするため、転職先として候補に挙がりやすいのだと思います。
8.独立の可否
不動産鑑定士は独立が可能な資格です。不動産鑑定事務所で一定期間実務を積んだ後独立する鑑定士も多くいます。不動産鑑定士には前記のa.公的評価と呼ばれる業務があるため、この業務に従事していれば最低限の収入を確保することが可能です。そのうえで、国や地方公共団体からの業務(現在は大半が価格競争の入札になっているようです)や、人脈を広げて他の士業の方からの業務、民間企業からの業務を受注できれば、収入を大きく増やすことも可能です。また年齢による引退以外(資金繰りの悪化など)で不動産鑑定事務所を閉鎖したという話は聞いたことがありませんので、不動産鑑定士は大きくリスクをとることなく独立が可能な資格であると言えます。
9.勉強時間
2,000~3,500時間
10.勉強方法
独学は不可能だと思います。試験範囲が広く、また一般の方には馴染みのない不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)が試験科目に含まれるため、専門学校に通って勉強の範囲を絞って勉強するのが効率的です。
11.試験日
短答試験:毎年5月中旬の日曜日
論文試験:毎年8月上旬の土曜日、日曜日、月曜日の3日間